喫煙によってどんどん失われる「ひらめき力」
今回のお話は、喫煙と脳の機能についてです。これを説明するために「アセチルコリン」という神経伝達物質をキーワードとして挙げています。
はじめに結論をいってしまうと、タバコを吸えば吸うほど脳の認知機能は低下し、「アイデア」や「ひらめき」が生まれにくくなります。言葉を選ばずに言えば「タバコを吸うほどバカになる」ということです。
もしこれを読んでいる人がヘビースモーカーで、禁煙を考えているのだとしたら、それは賢明な判断です。この話を聞けば、安易にタバコを口にできなくなることでしょう。
逆に「タバコをやめるつもりなんてない」という方は決して見ないようにしてください。喫煙を続ける自分に失望し、「ああ、自分はどんどんバカになるんだ、、、」という気持ちでタバコを吸い続けることになります。あるいは「このままではまずい。やめよう。」という気持ちになるかもしれません。いずれにしろ、あなたの喫煙ライフに大きな影響を与えてしまうことは間違いありません。
では、覚悟のある方はこの先の話をしっかりと聞いてください。
アセチルコリンと認知機能
喫煙と認知機能の関係を知るためには、まずこの話を理解してもらう必要があります。
「認知機能」と「ひらめき」に大きく関わる神経伝達物質に「アセチルコリン」というものがあります。
アセチルコリンは副交感神経や運動神経に働き、血管拡張、心拍数低下、消化機能亢進、発汗などを促し、学習・記憶、睡眠などにも深くかかわるものです。
少し細かい説明になりますが、アセチルコリンは全能基底部から、大脳皮質、大脳辺縁系、視床などに投射し、認知機能(思考・記憶・学習・注意力・集中力)、覚醒と睡眠(特にレム睡眠)、シータ波の発生、情動記憶などの機能も担うことから、仕事術的に言えば、「アイデア」や「ひらめき」、作業の効率や想像力・発想力などと関わってくる脳内物質だと言えます。
つまり、アセチルコリンをコントロールできれば、仕事が捗り、ひらめき力を得ることができるのです。
アセチルコリンと睡眠
例えば、アセチルコリンは「睡眠」と非常に強い関係性があります。睡眠には浅めのレム睡眠と深めのノンレム睡眠があり、レム睡眠の時に夢を見ることは有名です。このレム睡眠の時の脳波はシータ波が主体、つまり、アセチルコリンが活発に分泌されている状態なのです。
レム睡眠ではアセチルコリンが非常に優勢となり、セロトニンやドーパミンといったいわゆるアミン系は最低レベルとなります。奇想天外な夢、あるいは現実にはあり得ない夢を見るのも、アミンによる論理的縛りから脳が解放された状態だからです。
何が言いたいのかというと、アセチルコリンが優位な状態によって脳は論理的な思考の枠を超え、斬新なアイデアや画期的なひらめきが生まれる可能性が高まるということです。
また、レム睡眠中は記憶の整理が行われます。朝には綺麗だった作業机も、1日が終わると書類や本でゴチャゴチャになります。それを寝ている間に脳は整理してキレイに片付けているわけです。この作業の主役こそアセチルコリン。アセチルコリンが活発に分泌される状態で記憶と記憶が整理され、結び付けられ、関連づけされることで「記憶の定着」が促進されるのです。
しっかり眠らないと記憶が定着しないのはこのためです。いわゆる徹夜による一夜漬けの勉強が最悪なのは言うまでもありません。
この整理の過程で関連性の薄い出来事や記憶がうまく結びつき、そこに意味を見出すことこそ「ひらめき」なのです。歴史上の偉大な発明が夢をヒントに生まれたり、睡眠から目覚めた瞬間に生まれるという話がありますが、これは脳科学的に見れば当然の結果です。
アセチルコリンと喫煙
さて、アセチルコリンがどれほど大切なものかをご理解いただいた上で本題に入りたいと思います。
「タバコを吸うと頭がスッキリして集中力がアップする」「喫煙は仕事の効率をアップする」という話を聞いたことはありますか?
僕も昔はヘビースモーカーだったので、タバコを吸った時に頭がスッキリする感覚は分かります。それによってなんだか仕事の効率が上がりそうな気持ちも同様です。しかし、これは科学的には完全に間違いなのです。
アセチルコリンには、「ムスカリン受容体」と「ニコチン受容体」の2つの受容体があります。受容体というのは脳内伝達物質による刺激を感知する構造のことです。
ニコチンはご存知の通り、タバコに含まれる主要な成分です。タバコを吸うとニコチンは肺から吸収され、わずか7秒で脳内に到達してニコチン受容体と結合します。つまり、ニコチンがニコチン受容体と結合しても、アセチルコリンがニコチン受容体と結合するのと同様の反応を引き起こします。
ですからタバコを吸うと頭がスッキリする感覚が生まれるのです。
これを聞くと、タバコを吸うことによるニコチン摂取は有用だと勘違いしてしまう人もいるでしょうが、決してそんなことはありません。
タバコを日常的に吸っていると、脳の中で恐ろしいことが起こります。
タバコからニコチンを摂取して、アセチルコリン受容体を持続的に刺激していると、脳は「アセチルコリンが充分ある」と勘違いします。よってアセチルコリンの生成をサボるようになってしまうのです。
タバコを吸い続ければこの現象は進行し続け、「アセチルコリンが足りない状態」が普通になります。要はアセチルコリンを生成しない状態が普通になってしまっていますから、脳はアセチルコリンの生成を始めません。なので代わりに外部からニコチンを摂取しなければ落ち着かなくなっていきます。
これが『ニコチン依存症』です。
タバコを吸うと頭がスッキリするというのは、アセチルコリンが足りている状態を擬似的に作り出しているにすぎないのです。
また、ニコチン受容体と結合したニコチンは30分ほどで半減してしまいます。すぐにアセチルコリン不足状態になり、イライラしたりソワソワしてきます。ですから30分、1時間おきにタバコを吸って、外部からニコチンを補給し続けることで「アセチルコリンのようなものがある」と脳を騙し続けることをしなければならないのです。まさに不健康そのものです。
タバコをやめれば認知機能は回復する
つまり、タバコを吸ってニコチンを摂取し続ける限り、脳はアセチルコリンを充分に分泌することができなくなります。これによって認知機能(思考・記憶・学習・注意力・集中力)が低下し、同時に仕事の効率が悪くなったり、アイデアやひらめきが生まれにくくなくなるということが分かります。
「ニコチン依存症の人は認知能力が低い」とは言いません。世界一の大学オックスフォードやそれに続くスタンフォード、マサチューセッツに在籍する人々の中にもきっと何人かニコチン依存者がいることでしょう。
しかし確実に言えるのは、ニコチン依存である以上、本来の脳の機能を十分に発揮できていないということです。これは逆に言えば、過度の喫煙者であるなら、誰でもタバコをやめるだけで確実に脳機能を向上させることができるということになります。
ニコチン依存から脱し、タバコをやめ、本来の脳機能を回復させれば、人間は本来の認知機能を取り戻し、「ひらめき力」を得ることができることでしょう。
今回は喫煙がいかに脳の認知機能に影響を与えるかという問題を、「アセチルコリン」をキーワードにご説明しました。
こんな僕も昔はヘビースモーカーだったのですが、現在はきっぱりとタバコをやめ、健やかな人生を歩んでいます。現在は禁酒も同時に進行しており、さらに健康的な生活を送っています。禁煙・禁酒に関する記事を他にも書いていますので、興味のある方はこちらもご覧ください。タバコやお酒をやめる方法もたくさんご紹介しています。
<参考文献>
樺沢紫苑.『脳を最適化すれば能力は2倍になる』.文響社.2016.
“喫煙によってどんどん失われる「ひらめき力」” に対して1件のコメントがあります。