なぜタバコを吸うと持久力が無くなるのか

喫煙が運動能力に及ぼす悪影響は、多くの研究で明らかになっています。
「タバコが体に悪い」そんなことはもはや常識ですが、喫煙が具体的にどのように人体に作用するのかを説明できる人は多くありません。義務教育における保健の教科書には喫煙に関する項目があるので、皆さん一度は勉強しているものですが、非常に浅い内容であると共に、せっかく学んでも残る知識は「タバコは体に悪い」という結論部分だけでしょう。
なので今回は喫煙が人体に与える影響の中でも、持久的運動に最も悪影響を及ぼす『一酸化炭素』に注目してご紹介しようと思います。

無酸素運動と有酸素運動

本題に入る前に、持久的運動について少しだけ説明しようと思います。
運動には無酸素運動と有酸素運動が存在します。
無酸素運動の例としては、短距離走やウエイトリフティング、ハンマー投げなどがあり、短時間かつ運動強度の高いものが挙げられます。無酸素運動の特徴はその名の通り酸素を使わずにエネルギーを作り出すことにあります。
一方、有酸素運動は、長距離走、サイクリング、競歩などの長時間かつ運動強度の低いものがあり、名前の通り運動エネルギーは酸素から作り出しています。
この、筋肉を動かすためのエネルギーを酸素によって作り出す有酸素運動のことを、別の表現として持久的運動と言います。

一酸化炭素が酸素の供給を妨げる

それでは本題に入ります。
タバコには5,300種類以上の化学物質が含まれており、そのうち約200種類が有害物質、さらに70種類以上が発がん物質とされています。
これら数多くの有害物質の中でも、持久的運動に悪影響を及ぼすものが、一酸化炭素(以下OC)です。

人が生命活動を営む上で必要不可欠なものの一つに『酸素』がありますね。酸素は呼吸によって肺から体内に取り込まれ、血液を通って全身の組織に供給されます。その運搬を担っているのが赤血球細胞内に存在する『ヘモグロビン』です。
酸素はこのヘモグロビン分子と結合することによって全身に運ばれるのですが、そこにOCが存在すると話が変わってきます。
なぜなら、OCは酸素の200〜250倍の強さでヘモグロビン分子と結合してしまうからです。さらに、一度結合してしまうと数日間は結合したまま解離しない状態が続いてしまいます。これにより、OC存在下では全身への酸素運搬能力は著しく低下することになります。

運動している状態というのは、運動していない状態に比べ、より酸素を必要とするのは言うまでもありません。OCによってヘモグロビンと酸素の結合が阻害され、全身の組織への酸素供給量が減少するということは、例えば筋肉が本来の機能を発揮する能力が妨げられるということです。
そして前途したように数日間は結合したまま解離しないので、毎日喫煙をし続けるということは、常に運動機能が低下している状態をキープし続けることを意味するのです。

喫煙が運動能力に及ぼす影響

より具体的に説明します。
ある研究者は、運動直前に喫煙をすることで、最大酸素摂取量(呼吸によって酸素をどれだけ体内に取り込めるかの指標)が約7%低下することを報告しました。もちろん理由はOC結合ヘモグロビンの割合が増加するためです。
7%と聞くと、さほど影響が無いように感じてしまうかもしれませんが、考えてみてください。
健康な人が一呼吸で100の量の酸素を体に取り込めるとしたら、タバコを吸う人は同じ一呼吸で93の量しか酸素を取り込めないということです。つまり約14回呼吸する度に1回多く呼吸しなければならない計算になります。
これは同研究報告の中で、最大酸素摂取量が7%低下することにより、運動持続時間が20%短縮されたことが物語っています。
これは簡単に言えば、本来ならば5時間練習できる人が、練習前にタバコを吸ってしまうと4時間で限界を迎えてしまうということになります。実際にはこんなに単純な話では無いのですが、これは喫煙が競技力低下に大きく関連していることを示しています。
また、非喫煙者と喫煙者では12分間で走れる距離に差が生じるという研究結果もあります。非喫煙者は平均2,580mに対して、1日30本以上の喫煙者は平均2,300mとなりました。複数の被験者を元にしたデータのため、各自のそもそもの運動能力の問題だとは言いにくい結果です。
このことから、2km程度の中距離走行運動においても、喫煙は悪影響を及ぼしていると言えるわけです。

まとめ

今回は喫煙が持久的な運動にどのような悪影響を及ぼすのかということを、『一酸化炭素』(OC)をキーワードにご説明しました。
人が生命活動を維持するために欠かせないものに酸素があり、酸素は血中のヘモグロビンと結合することで全身の組織に供給されます。しかし血中にOCが発生すると、その運搬機能は阻害され、全身への酸素供給量が低下してしまいます。
これによって多くの酸素供給を持続的に必要とする持久的運動(有酸素運動)に大きな悪影響を及ぼすということが分かっていただけたと思います。

タバコには200種類以上の有害物質が含まれています。今回ご紹介したのはその中のたった一つ、一酸化炭素に関する情報のみです。その他の物質も、今回ご紹介したように喫煙者の健康を脅かす作用を持っています。
タバコというものが体に悪いことは誰もが知っています。しかし具体的にどのように人体を蝕んでいくのかをしっかり理解している人がどれだけいるでしょうか。喫煙による一酸化炭素の摂取が運動持続時間を20%も短縮させてしまうことを知っているアスリートが何人いるでしょうか。
これほど危険なタバコが合法である理由が、国民の健やかな生活のためでは決してないことを、僕たちは理解しなければなりません。タバコを吸うにしても、そのリスクを深く理解した上で慎重に行動を決定するべきではないでしょうか。

最後に

僕自身、昔はアスリート(体操競技)でありながら、喫煙をしていた人間です。
当時は国内の喫煙率も非常に高く、僕の周りにも喫煙者がたくさんいました。また、世界の第一線で活躍する憧れの選手すら喫煙者であることも多く、無知だった僕は「体操選手はタバコを吸っても大丈夫なんだ」と、根拠も無く考えていました。
確かに体操競技という種目は無酸素運動としての最大筋力を発揮する場面が多く、有酸素運動要素の比率は少ない種目です。しかし、冷静に考えてみれば運動持続時間が低下するという観点からも、直接的では無いにしろ、喫煙が競技力に悪影響を及ぼすことは容易に想像がつきます。

僕は2歳から体操を始め、小学校に上がるタイミングで選手クラスに編入しました。その後、中学校卒業まで大きな舞台での輝かしい成果は出せませんでした。
しかし高校3年生の夏、国民体育大会にチームのキャプテンとして出場し、団体優勝を勝ち取ることができました。
さらに大学生では、全日本選手権を始め、国内最高峰であるNHK杯という舞台にも勝ち進むことができました。
この時期は本当に体操が楽しくて、もっと大きな舞台で演技をしたいという気持ちでいっぱいでした。

しかし、20歳になった僕は、後先のことなど考えずタバコに手を伸ばしました。
当時はタバコも安かったですから、学生が買うのもそれほど難しいことではありませんでした。
僕の競技成績が喫煙によって影響されたとは言い切れませんが、NHK杯出場以降、僕がそれ以上の大きな舞台に立つことはありませんでした。

もちろん、喫煙者であっても、僕より成果を出している人や、オリンピックに出場している人もいます。僕がNHK杯に出場したのも、喫煙者になってからの話です。僕の競技成績が上がらなかった理由として、喫煙以外の要素も考えられることはあります。
ですが、あれから数年経ち、改めてこうして喫煙が人体に与える影響を勉強し直すと、少なからず喫煙というものが自分の競技成績に悪影響を及ぼしていた可能性を感じざるを得ません。

しかしながら、我々はどれだけ後悔をしても過去を変えることはできません。変えられるのはこれからの行動だけです。
なので僕はこれからの人生で後悔しないために、タバコをやめました。幸いしっかりと禁煙をすることができれば、失われた体の機能を取り戻すことができます。(もちろん、ガンや心臓病などの大きな病を発症してしまったら禁煙でどうにかなる話ではありませんが。)
タバコという薬物の危険を十分に理解し、喫煙のリスクを知った上で、どのように付き合っていくか、あるいは付き合わないべきなのかを判断していただければと思います。

今回も最後まで見てくださってありがとうございました。
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