お酒がやめられないメカニズム

2024年4月9日にお酒を一生飲まないと決意してから4ヶ月が経ちました。
この記事を書いている2024年8月はパリオリンピックが開催されており、世界中がスポーツに注目しています。
4年前(3年前)の東京オリンピックでは、お酒を飲みながら観戦していたことが記憶にありますが、今回はお酒がなぜやめられないのかという話を科学的根拠にしっかりと基づいてご紹介しながら、現在の僕の状態についても少しお話しできればと思います。

好きな物事とお酒の最強タッグ

さて、お酒というのはただ飲んでいるだけでも満足感を感じるものですが、それに何かしらのイベントが重なるとさらに満たされた気持ちになりますよね。
例えば先に書いたように「スポーツ観戦×お酒」という組み合わせが思い浮かびます。その他にも、「ボーリング×お酒」「同窓会×お酒」「カラオケ×お酒」「焼肉×お酒」などが挙げられます。
このように楽しい物事とお酒の組み合わせというのは、非常に高い幸福を感じるものです。

僕も当時は当たり前にお酒を飲んでいた人間なので、オリンピックや世界選手権、または国内の全日本選手権、NHK杯などのテレビ放送を見る時には、お酒を飲みながら盛り上がっていました。
他にも学生生活から独身生活にかけてはカラオケが趣味で、毎週のように通っていましたが、カラオケとお酒はセットというのはお決まりで、もはやシラフでカラオケなど考えもしませんでした。

このような状態が「悪い」とは言いません。何度も言っていることですが、僕は飲酒が悪だという主張をしているわけではないので、大前提として飲みたい人は飲みたいだけ飲めばいいと思っています。
その上で、個人的な意見としては、お酒の持つ特性によって飲酒から抜け出せなく状態が作られ、それによって健康を害してしまうとしたら、それは幸福とは程遠い人生ではないかという主張です。

さて、話を戻します。
飲酒が幸福感をもたらす原因は、アルコールを摂取することによって脳内で分泌される「ドーパミン」が、快楽を感じさせるホルモンであるからです。このメカニズムは、タバコはもちろん、覚醒剤やコカインといった違法薬物と同様です。
つまり、理屈で考えればお酒を飲みさえすれば、"何をしていても"幸せな気持ちになれます。だからこそ、会社で何か失敗したり、人間関係でもめ事があった時に「お酒を飲みたい」という気持ちになります。苦しみを紛らわすひとときの幸福を味わうためです。
このように、お酒を飲むだけでも幸福感を味わえるのですから、自分の好きな物事とかけ合わせたのなら、その相乗効果は計り知れない幸福感を生み出すというわけです。
そしてその快楽を知ってしまったら、なかなか抜け出すことはできません。
「焼肉を食べる時は必ずビールを飲む」という人がいたとします。その人に「今回はどうしてもお酒を飲めない」という事情があったとしたら、普段の焼肉の楽しみがなんだか半減したように感じてしまうものです。
当時の僕も、「お酒が飲めないカラオケ」なんてカラオケじゃないと思っていました。それほどまでにカラオケと飲酒という2つの物事が強烈に結びついていたのです。

では次に、飲酒が習慣化されるメカニズムについて考えていこうと思います。

なぜ飲酒が習慣化するのか

皆さんは、「習慣」の作り方をご存知でしょうか。
例えば、「朝起きたらベッドを整える」という習慣を作ろうと思ったら、それをするためのトリガー(引き金)を設定するのが効果的です。
朝にベッドを整えるという行為は、今までそのようなことをする習慣が無い人にとっては面倒な物事ですが、他の物事とセットにすることで、行動が促されるようになります。
「朝起きたらまずカーテンと窓を開ける、そして朝日を浴びて目をさます、ベッドを整えてからトイレに行く。」というルーティーンを決めてしまいます。
すると、「カーテンを開ける」という行動が「ベッドを整える」という行動をするためのトリガーとなり、習慣化のきっかけとなります。
あえて「きっかけ」と言ったのは、毎日する物事の習慣化には最低21日かかるという研究結果があるからです。
なので今回の例で言うと、朝起きたらカーテンを開け、その後にベッドを整えると言う行動を3週間毎日続けることができたら、体に習慣として身につくので、それ以降は面倒な気持ちが無くなると言うわけです。

ではこれを踏まえて飲酒について考えてみましょう。
仕事が終わったらお酒、お風呂を上がったらお酒、寝る前にお酒、、、このようなことはよくあります。
これらは全て、「仕事終わり」「お風呂上がり」「寝る前」という物事とお酒がセットとなっていますね。つまりその物事が全て飲酒のためのトリガーとして機能しているわけです。
お風呂上がりにビールを飲むという行動を21日間(3週間)続けたとします。すると体はその行動を習慣として身につけます。正確にいうと、「繰り返される行動」は重要な物事だと脳が認識することでそれを忘れなくなるのです。
一度習慣になってしまったら、やめることの方が大変です。なぜなら、日常的な行動が飲酒のトリガーになってしまっているからです。
さらに、「AをしたらBをする」というパターンが習慣化されていると、「AをしたのにBをしない」「AをしていないのにBをする」ことに脳が拒絶反応を示してしまいます。
その結果、お風呂を上がったら飲まなきゃいられない、仕事終わりに飲まないなんて考えられない、飲まなきゃ寝られないという状態になってしまうというわけです。

依存物質によって鎖はさらに頑丈に

お酒がやめられなくなる最も大きな理由は、習慣化やトリガーによる物ではありません。
そうです。アルコールという薬物には強い依存性があるからです。

先ほどアルコールを摂取すると脳内でドーパミンという快楽ホルモンが分泌されるという話をしました。通常、ドーパミンがどのような時に分泌されるかというと、新しい物事にチャレンジした時、人から褒められた時、目標を達成した時などです。
これを聞いてお分かりになると思いますが、本来は努力をしたり、苦難を乗り越えたり、何かしらの行動が伴った成果によって人が幸福を感じるものこそドーパミンなのです。
そんな幸福感が飲むだけで得られ、さらにそれがコンビニやスーパー、飲食店などのすぐ手の届くところにあるのですから、飛びついてしまうのも無理はありません。何より"合法"ですから。

ここで、アルコールの依存性がどれほど強力なのかが分かる、ある実験をご紹介しましょう。(過激な内容なので知りたくない人はささっとスルーしてください。)

この実験では猿の血管にチューブを繋ぎ、レバーを押せば特定の薬物が投与されるように準備します。
初期段階として、レバーを押せば押した回数だけ、いくらでもその薬物が脳に届くように設定します。しばらくすると猿は、餌も食べず、夜も眠らず、水も飲まずにレバーを押し続ける薬物依存状態になります。
次の段階で、レバーを決めらた回数押した時に薬物が脳に届くという条件に変えます。最初は10回、その次は50回、次は100回と徐々に押さなければならない回数を増やしていきます。この回数をどんどん増やしていき、薬物を得ることを"諦める回数"を測定します。
その薬物を得られるまでレバーを押し続けた回数=依存度の高さと考えることができるわけです。
結果は次のようになりました。

ニコチン(タバコ)...800〜1,000回
ジアゼパム(精神安定薬)...950〜3,200回
アンフェタミン(覚醒剤)...2,690〜4,530回
アルコール(酒)...1,600〜6,400回
コカイン(麻薬)...6,400〜12,800回

この実験から、意外にもタバコの依存度はアルコールや他の薬物に比べてそこまで高くないことがわかります。それより恐ろしいのは、一般使用が厳しく制限されているアンフェタミン(覚醒剤)以上の依存度をアルコールが持っているということです。
ニコチン依存症の猿は、最大でも1000回レバーを押したところでニコチン摂取を諦めましたが、アルコール依存症となった猿は、少なくても1600回、最大で6,400回もの回数レバーを押し続けるまでアルコールに執着し続けたのです。

このようにアルコールには強い依存性があります。
なので飲酒が習慣化していたり、トリガーによって飲酒が引き起こされていることに加え、脳がアルコールの快楽から抜け出せなくなってしまったとしたら、その強力な鎖から逃れることは非常に困難だと言えます。

お酒をやめたことで幸福感が増した

さて、先ほども言ったように、僕は当時当たり前のように毎日飲酒をしていた人間です。間違いなく飲酒が習慣化していましたし、重症ではないにしろ、アルコール依存症だったことは間違いありません。
そんな僕でしたが、今はお酒を飲まないことが当たり前です。
では果たして、人生の幸福度は下がってしまったのでしょうか?

答えはノーです。

お酒を手放したことで幸福を感じられなくなったという感覚は微塵もありません。
それどころか、睡眠の質が向上し、日中のパフォーマンスが劇的に上がり、記憶力や思考力が向上し、スポーツ観戦も、食事も、他のあらゆる娯楽をもっと真剣に楽しむことができるようになりました。
お酒があるから楽しかったのではありません。僕は、お酒をやめたことで本当の幸せを取り戻すことができたのです。

禁酒から2週間後のまだ禁断症状に苦しんでいた時期、お酒の席でお酒を飲まないという状況を経験しました。後輩の結婚式です。
その後輩夫婦はお酒が大好きで、出席者もお酒好きな方々が多く、式の内容もとにかくたくさん飲めるような形式でした。
ですから、正直不安でした。誘惑に負けて飲んでしまうのではないかという不安もありましたが、一番はお酒を飲まずにこのイベントを楽しむことができるかという不安です。

結果として、僕は「お酒を飲まない結婚式がこんなにも素晴らしいものなのか」と気付かされました。
新郎である後輩や旧友たちとの久しぶりの再会を喜び、新郎新婦の新たな門出を心から祝福することができました。
今までの僕が少なからず考えていたのは、「せっかくの結婚式、今日は飲むしかない!」という事です。もちろん、新郎新婦を祝福するという大前提はありますが、参列者のみんなが酔っ払い、賑やかな雰囲気となって祝ってもらうことを、主催者側も望んでいるからです。
しかし今回ばかりはお酒を口につける訳にはいきません。なので、僕は今まで以上に会場の装飾や新婦の衣装、余興などのプログラム、料理などに注目しました。新郎新婦がどんな思いでこの式を開いているのか、どれほど努力して準備をしてきたのかを想像しながら。
確かに、これはお酒を飲んでいようが、いなかろうができることです。ただ僕の場合は、飲まなかったことで、今まで以上に結婚式というものと真剣に向き合うことができたように思うのです。
それに何より、お酒を飲まずとも、美味しい料理を食べて、友人とたくさんお話をして、充実した素晴らしい時間を過ごすことができました。

お酒のリスク

アルコールにはドーパミン(快楽物質)を分泌させる作用があることはことは前途した通りです。しかしその「快楽」には多大なリスクが伴うことを忘れてはいけません。
例えば睡眠の質の低下、肝臓の機能低下、糖尿病やがんのリスク増加、痛風や神経障害のリスク増加などが挙げられます。確かにこれらの症状には個人差がありますし、お酒を飲み続けていても健康で長生きしている方がいらっしゃるのも事実です。
ただし、理屈で考えれば、健康を害していることもまた事実なのです。

アルコールによってドーパミンが分泌された後、脳でどのようなことが起きるか、さらに深くお教えしましょう。
ドーパミンが分泌されると、「ドーパミン受容体」がそれを受け取ります。このサイクルがあって初めて快楽を感じるのですが、残念ながら永遠に快楽を得ることはできません。
その理由は、飲酒を続けていると、ドーパミン受容体の感受性が低下してしまうからです。つまり、同じ量のドーパミンが分泌されても、ドーパミン受容体がそれをうまく受け取れなくなっていくのです。
なので以前と同等の快楽を得るためにはどうしてもドーパミンの分泌量を増やすしかありません。そう、お酒の量を増やすしか無いということです。

何のためにお酒を飲むのか、という問いに正確に答えるのであれば、「快楽を得るため」でしょう。
しかし同じ量のお酒を飲んでいても、同等の快楽を得ることは理論上できません。飲む量を増やすか、足りなくなった快楽で我慢するか、その2択しかありません。

さらに、忘れてはいけない重大なことがあります。
アルコールによって持続的なドーパミン供給を続けていた人が急にアルコールの摂取を止めると、身体が異常を感じるということです。
具体的には「不安」や「不眠」、大量に摂取していた人の場合は「手の震え」や「知覚賞状(幻覚、幻聴)」が表れる場合もあります。
その理由は、長期的なアルコール摂取によってドーパミンが分泌されている状態が「正常」であると、脳が誤解してしまったためです。ですから、その分泌が急にストップすると、ドーパミン欠乏状態となった脳がパニックを起こすのです。
「え?なんで、あの幸せをくれないの?」「ちょっと、、、なんだか不安になってきた、、、。」というイメージです。

まとめ

つまるところ、お酒を飲んだ先にあるのはこの4つの運命です。
①同等の快楽を得るために飲酒量を際限なく増やし続け、その代償に健康的な人生を手放す
②同等の快楽を得続けることは諦め、ほどほどの飲酒を続けてほどほどに不健康になる
③自らのアルコール耐性を見定め、決して習慣化せず、少量で我慢し、体への負担を最小限にとどめる
④一刻も早くアルコールを絶って、健康的な心身と本当の幸福を手に入れる

さて、皆さんはどんな未来を選ぶでしょうか。
もしかしたら、これを読んだ人の中に「飲酒についてあまりにも悪く言いすぎ」だと感じる方もいるかもしれません。しかし残念ながら、僕の言っていることは全て事実です。
最初にも言った通り、僕は多くの人に飲酒をやめてほしいと考えているわけではありません。飲みたい人は飲みたいだけ飲めばいいと思っています。
しかし、もしも事実を知らずに飲んでいるのだとしたら、その飲み物が安全だと思っているのだとしたら、「酒は百薬の長」という言葉を信じてしまっているのだとしたら、それはとても悲しいことです。
飲み続けるにしても、せめてしっかりと事実(リスク)を理解した上で飲酒を続けてほしいと思います。

今回も最後までで読んでくださってありがとうございました。
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