たっぷりと愛おしまれた子は

【たっぷりと愛おしまれた子は】
あるところに、高校で不登校になってしまった春香さん(仮名)と言うお嬢様がいました。
ご両親はこれを機にと、不登校になった娘と信頼を深めるよう努めました。
春香さんは、生きる意味を見つめ直し、そして家族に愛されていることを改めて知りました。
苦しみから立ち上がるとともに大学に合格した春香さんは、早々にお嬢様時代を卒業。
20歳で結婚し、今では2人の子供を育てるそれは素敵なお母さんになりました。
最初の男の子が生まれた時、「この子は神様から授かった子。本物の天使だわ」と喜びました。
何事においても母であることを優先し、我が子のために尽くしました。
おかげでその子は、4歳になるまで「お母さんはいつでも僕に微笑んでくれる」思いを満喫しながら育ちました。
けれども2人目の子が誕生して、天使だったその子は少しばかり人間らしくなりました。
ヤキモチを焼き、駄々をこねました。
独り占めしていたお母さんの愛情を奪われる苛立ちに、彼の心は少し不安定な状態になりました。
出産から1週間後、赤ちゃんをおばあちゃんに抱いてもらい、春香さんは4歳であるいささか重たい彼を抱いて帰りました。
赤ちゃんがぐずると、しばしば彼もぐずります。
そんな時は赤ちゃんを後回しにして、彼を満足させてから赤ちゃんに向き合います。
案の定、彼は赤ちゃんと同じようにミルクを欲しがりました。
春香さんは赤ちゃんにやるのと同じように、少しも面倒がらずに「大きな赤ちゃん」への授乳も楽しみました。
お母さんと赤ちゃんが帰ってきたその日から、今まで元気に通っていた保育園にも行かなくなりました。
でも、「それでも良いよね。今は家族で、ゆっくり穏やかな時を過ごそうね」と思い定め、本当にこの上ない宝物のような日々を味わいました。
「そんな、大きな赤ちゃん扱いしてたら、甘ったれになるよ」
周囲にはそんな不安を煽る声がありました。
「でもだいじょうぶ。これでいいの」
春香さんは思い直して、彼をゆったり包む場面を大事にしました。
やっぱりそれでよかったんです。
彼は、ほどなく赤ちゃんでいることに飽きてしまいました。
誰に言われるまでも無く、「ぼくはおにいちゃんなんだから」と立派に振る舞い、赤ちゃんをいとしみ、可愛がるようになりました。
可愛いかった天使は、すっかりたくましい天使になって戻ってきたのです。
子供の赤ちゃん返り、そして不登校。
この2つは全く違うようで、共通的があります。
それは、起きている現実に心が不安定になっているという点です。
確かに、不登校というのはもっと複雑な原因かもしれません。
しかしどちらも、その時子供が必要としているのは安心であり、満たされない何かがあることは確かです。
不登校とも赤ちゃん返りとも無縁の家庭の方が多いのは事実ですが、いずれにしろこの話には、見習うべき親としての姿勢があることは間違いありません。


